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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
俺はそれを手に取り、折り畳み式のキーボードを展開する。
「ふーん、パソコン? ……とは、違うよね。電子辞書かなにか?」
「これはデジタルメモ。パソコンやスマホのように多様なソフトやアプリを使えるわけでもないし、ネットができるわけではない。文字を打つためだけに特化した機器なんだ」
「それで、小説を書くの?」
「ここなら主にパソコンを使うけど。ちょっと外出した時なんかに便利なんだ」
気分転換に散歩してる時、思い浮かんだアイディアをすぐに打ち込むこともある。もちろんスマホでもできることだけど、文字入力しかできない分、他に気を削がれることもなかった。一見アナログにも思えるところが、割と気に入っている。
「そんなことより、今日は何時に出かける?」
そう聞くと、高坂さんはなぜか気まずそうに視線を逸らした。
「高坂さん?」
「あ、あのさ……」
「うん?」
「今日、ホントにいいの?」
「いいって?」
「だから……私と、デートなんて」
はっきりとした彼女らしくもなく、不安そうな言い方だった。
「まあ一応は、そのつもりでいたけど」
「そう」
「もしかして、気が進まない? それなら――」
「ううん、そうじゃないの……」
高坂さんは、憂鬱さを漂わせながら話す。
「なんだかさぁ……あの子たちに、妙に張り合った感じになってたら、それは嫌かなって。実際、管理人さんも迷惑だろうし、さ」
「別に、迷惑だなんて思ってないよ」
「ホント?」
「うん」
あまり深く考えることもなく、俺は頷いていた。
「それなら、よかったよ」
すると高坂さんは、安堵したようにニッと笑う。それは、彼女らしい笑顔。
そう感じた途端に、思わずドキリとする。不意をつかれたせいもあるだろう。なんだか、この人と一緒にいると……。