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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
きょとんと顔を見合わせ、数秒。それから二人は、ふっと微笑を零す。そして同時に、その先の言葉を続けた。
『――会えたら、よかったのに?』
ハモったことが可笑しくなって、それから二人でクスクスと笑い合った。相手の気持ちを探るように、疑問形になったところまでリンクしていたから余計に笑えた。
でも、これは本心だ。高坂文水に対しての好意が、友人を越えるものかどうかは明確ではないけれど、少なくとも今の状況の中では、ゆっくりそれを推し量ることも難しいように感じられる。
もっとシンプルに男と女として、だったのなら。だけど、その仮定は無意味だろう。
なにより彼女には彼女なりの事情があって、ここに来ているはずだ。そうでなければ、関係性の希薄な瑞月たちに同伴して二週間も同じ別荘に滞在したりはしないだろう。
その上で、この奇妙な夏に俺たちは出会っているのだから。
そして今日は、そんな高坂文水と二人きり。自分の気持ちと彼女の事情を探るのには、またとないチャンスと捉えることもできる。それなら――
「とりあえず、どこへ行こうか?」
ほんの僅か、胸に高揚するものを覚えながら。
「じゃあ、美術館へ」
「ああ、そう言ってたっけ。本当に行きたかったんだ」
「ま、とりあえずは、ね」
そんな風にはぐらかした高坂文水とのデートは、まだ始まったばかりだった。