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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
◆◆◆視点・高坂文水◆◆◆
「できれば違う形で――会えたらよかったのに?」
車を運転する彼と、私はほぼ同じこと口にしていた。後半の部分は、まったく同一の文言がピタリと重なっている。直後、彼と顔を見合わせてクスクスと笑い合った。
でも、特別なにが可笑しいというわけもない。そして、彼とまったく同じ気持ちで言葉を口にしたとまでは、思っていなかったから。
ここでいう彼とは、夏のバカンスに訪れた別荘の管理人さんのこと。だけど、この旅をバカンスと表現するのは、はっきりいって語弊がある。他の二人がどうかはしらないけど、私の場合はそうだった。
私――高坂文水はとある事情があって、この度の旅行に同行している。もっと言えば、頼まれ事があって来ているのだ。特に仲良くもない、どちらかと言ったらいけ好かないと感じていた彼女。岸本瑞月からの依頼を受けた形で。
そんなわけで旅費は只。その上、決して安くない報酬を受け取る話になっていた。基本バイトをしながら生活費を賄っている身からすれば、悪くない話だった。
でも、依頼の内容は真面ではない。どうして私に、こんなことを頼んできたのか。最初に話を聞いた時は、やや唖然とした。キレてもいい場面だったかもしれない。
でも話を持ちかけてきたのは、あの岸本瑞月だ。他人に無関心な私でも、その存在は否応なく意識に留まる。なにせ彼女はこの国でも、最上位クラスのお嬢様なのだから。