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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情


 その一件以降、当たり前だけどサークルの集まりには顔を出しずらくなる。だから余計に、岸本瑞月から声をかけられたことが意外だと感じた。

 でも、すぐにわかった。どうして私に〝誘惑〟というミッションを依頼してきたのか、その理由が。

 それは、私が過去に風俗で働いていたからに他ならない。例の先輩が振られた腹いせに、サークル内に噂を流したのだった。

 そういう女だからこそ、岸本瑞月は私に白羽の矢を立てたということ。その経緯を理解した時に、私は怒るよりも先に笑いたくなったものだ。自らを自嘲したかったのである。

 そう、私は風俗の女。女を売り物にした過去は、今更消すことはできない。だけど、その過去を金輪際、自分の弱みにするつもりもなかった。

 私は結果として岸本瑞月の依頼に応じると、真夏の避暑地に同行することになった。そして訪れた別荘で、ターゲットとなる男と出会うことになる。

「瑞月の兄の岸本涼一といいます」

「……!」

 私は思わず目を見張った。そして、まじまじと彼の妹である岸本瑞月の顔を見つめていた。

「……」

 取り澄ました彼女の横顔を眺めながら、私の中に微かな好奇心が芽生える。誰もが羨む、大金持ちのお嬢様。そんな彼女の、歪な心根をもう少し覗いてみたくなった。

 なにせ自分の兄を誘惑させようとしているのだから、真面ではない。

 頼まれたのは、単に誘惑するだけ。別に肉体関係までに、至る必要はないのだということ。要は相手がどんな反応をするのか、それを見定めればいいのだろう。

 つまらないこと(トラブル)になりそうだったら、こんな別荘、いつ引き上げてもいい。後で受け取るはずの報酬さえ諦めれば、他には問題なんてないはずだ。

 まずは手始めに、ターゲットとなる岸本涼一を近くで観察してみよう。軽いジャブのつもりで、私はシャワーで汗を流したいと言い出し、脱衣場で彼と二人きりになった。

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