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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情


 暗がりのリビングで、私が寝ているとは気がつかなかったみたい。買い物袋を身体の上に乱暴に置かれて思わず声を上げると、それに驚いた彼が更に私の上へと覆い被さってきたのだった。

「えっと……おかえり?」

「あ、うん……ただいま」

 ソファーの上で折り重なりながら、私たちは気の抜けたような言葉を交わす。これは、いい機会だ。私はすぐにそう想い至り、甘ったるく声音を変える。

 誘惑の開始だ。

「ごめん……まさか、ここで寝ているなんて」

「いいけど――」

 二人の周りには彼が買ってきた野菜や肉のパックなどの食材が、乱雑に散らかっている。

「片づけるの? それとも別のことを、するの?」

 新婚カップルに見立てたベタなコントのシチュで「お食事にする? お風呂にする? それとも、ワ・タ・シ?」というのが頭をよぎり、思わず吹き出しそうになるのをぐっと堪えた。

 そんなわざとらしさもあってか、この時点で彼が誘いに乗ってくることはなかった。まあ、当然かな。これくらいで、その気になられてしまったら、流石にこっちだって気持ちの準備が整っていないのだし。

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