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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情

男の理性の箍が外れる瞬間には、当然だけど個人差がある。彼の場合、割と強固な方に思えていた。
だけど、ここはベッドの上。抱き合ってこんな風に囁きかけたら、大抵の男は欲望を剥き出しにする。
ましてや森閑とした緑の中にある別荘で、孤独に小説と向き合っているという彼。ギラギラした男の欲望が一度顔を出せば、容易に引っ込みがつかないはず。
私は性風俗という仕事の現場で、男の欲望を嫌というほど受け止めてきている。その点では心得ている、はずだったのに――。
「高坂さん。本当に、どういうつもり?」
彼は、ここまで赤裸々な誘いにも、乗ってこようとしない。妹の友達という意識が邪魔をしているのか。でも頭の中には、すぐに別の可能性が思い浮かんでいた。
「……やっぱ、嫌だよね」
「え?」
「私みたいな、汚れた女となんか……」
こんな風に、いじけたことを口にする自分が嫌いだ。でも弱さを見せることで、彼の関心を引こうとは本当に思っていない。単に、自分の過去を嫌悪していただけに過ぎなかった。
風俗で働いたのは、弟の学費を稼ぐためだ。もちろん、当人には内緒にしていた。でも結局はバレてしまい、弟は進学を取り止めて就職することになった。
風俗の金を当てにしてまで、大学に進むなんて冗談じゃない。弟はそんな風に言った。今にして思えば、当然だと思う。
弟とはそれ以来、ほとんど顔を合わせてない。仲のいい姉と弟のつもりでいたのに……。
私の軽率な判断が、寧ろ弟の可能性を狭めてしまったのだろう。そう考えた時に、とてもやるせなく虚しかった。

