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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情

「……」
彼が妹たちを迎えに出かけた後で、残された私はキッチンでコーヒーを煎れた。なにも加えずに、ブラックのままのコーヒーを啜る――と。
「にがっ……!」
一口だけで、思わず顔をしかめていた。
本来ならミルクも砂糖もたっぷり入れるのが、私の好み。でも風俗の仕事の後は、いつもブラックコーヒーを飲んでいた。それは自分への戒めのようでもあり、それでいて慰めであったのかもしれない。
この苦さが、汚れた身体を浄化してくれる気がして。でも、わかっている。こんなの無意味だ。問題はいつも、気持ちの中にこそあるのだから……。
別荘の管理人さんは、ちょっといい感じの男。だけど、いけ好かない妹は、私に彼のことを誘惑するように言った。
その結果、私は風俗のプレーで彼を果てさせ、そして自分の中の癒えない傷の痛みを呼び覚ましてしまっている。
まだ、ほんの一週間前のこと。その時のことを思い返していたら、彼の運転する車の助手席で、思わず呟いていた。
「ホント、バカだな……」
「え?」
「あ、ううん……な、なんでもないの」
「ホント?」
不思議そうな顔の彼を見つめ返しながら、私はあの次の日に岸本瑞月と交わした言葉を思い返していた。
「一応、誘ってはみたけどさ。全然、どうにもならなかったよ」
彼女に対し、私は本当のことを報告しなかったのである。
「あ……そうなんだ」
そしてその時、少しだけ嬉しそうにした岸本瑞月に、より一層の反感を覚えていた。
私は、もう――
「今度は、苦くないコーヒーを飲みたいな」
「苦くないコーヒー?」
「うん。管理人さんと――ね」
それが今日のデートで果たされるなんて、そんな自信はこれっぽちもないけど。
――自分の望まないことをして傷つくのは、もう沢山だから。

