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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情

◆◆◆視点・岸本涼一◆◆◆
別荘から林道を下り街中に至るより少し手前、木々を分へ隔てるようにして目当ての美術館が姿を現す。ハンドルを切り広い駐車場に車を停めると、頬杖をついて窓の外を眺めたままの彼女に言った。
「とりあえず、着いたけど」
「うん……そうだね」
彼女――高坂文水自身が希望した場所であるのに、その返事は気のないものに感じられる。そう言えば、車の中でも妙に口数が少なかったようだけど、なにか心配事でもあるのだろうか。
「えっと、どうする? もし他の場所の方がいいなら、それでも構わないし」
「え? なんで」
「いや……なんか、気乗りしないみたいだから」
そもそも「美術館に行きたい」という希望自体が、あまり彼女の本心のようには感じていない。あの時は五月女さんに急き立てられた俺を気遣って、適当に答えてくれていたのではなかったか。
こちらとしては今度は反対に、テンション低めの高坂さんを気遣ったつもりだけど。
「まぁた、いいよー。そんな風に、私の顔色なんて窺ってくれなくてもさぁ。いつもそうなの? それとも、女四人を相手にして気後れしてる?」
「いや、別にそんなつもりはないよ。だけど、いつもは一人だったから人との距離を測りかねているというのなら、それは否めないかもね」
「うふふ。女に囲まれて困惑するのはわかるけど、我が儘ばかり言わせてちゃダメだよ。私が言うのもなんだけどさー」
「そうじゃないんだ」
「ん?」
「気になるんだ、純粋に。高坂さんが、元気ないみたいだから」

