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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情

◆◆◆視点・高坂文水◆◆◆
パラ――。
私の右手は、本のページを捲る。
パラ――、パラ――。
一定の間隔で捲り続けてはいるけれど、まだ暫くの間、羅列する活字は意味となって頭の中に入ってきてはくれないのだった。
それでも本を読む振りをしてないと、また涙が零れてきかねない予感がある。ちょっとだけ怖い。自分自身が、精神的に不安定なことを自覚。こんなにも女々しい自分のこと、やっぱり大嫌いだと思っていた。
大体、私は人前で涙を流すタイプではないはず。こんなこと、いつ以来だっけ? 自分で言うのもなんだけれど、本来すっきりとした性格のつもりなのに……。
幼かった頃を除けば、泣いたことなんて数えるほどしかない。それでも思い返してみると、真っ先に行き着く場面があった。
少なくとも他人の前で涙を流したのは、たぶん一度きりのこと。だからさっきの涙《アレ》は、その時以来ということになる。
ぱら――。
ようやく活字の世界に彩りが戻りそうだ。そうなると読み飛ばした、少し前のページに戻りたい気分も芽生える。だけど、今はそれも面倒だった。管理人さんに選んでもらった本は確かに面白かったけれど、過去に戻りかけた私を引き留めてくれることはなさそう。
ううん、本のせいなんかじゃない。私自身の、避けられない悩みのせいだ。私は本から顔を上げて、そっと彼の顔を窺う。

