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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
「…………」
髪を掻きながら、悩ましげに必死になにかを思慮している。そんな管理人さんの様子を眺め、私はふっと無音で笑みをこぼした。清々しいくらいに、なにかに打ち込んでいる姿を、とても好ましく感じた。
目の前の彼と、私はどうなりたいの?
それは、今はまだ答えが返らない自問。芽生えかけた小さな希望を形にしたいのなら、その前に取り除かなければならない棘《とげ》がある。心の奥の方に突き刺さったまま、今も鈍い痛みを残して止まない。
それは些細な痛みにすぎないから、見て見ぬ振りをしてやり過ごすこともできる。実際、私はこれまでそうしてきたのだった。無暗に触れようとさえしなければ、やがて棘は心の一部として同化するはず。
だけどその分、心は歪になる、きっと。今の私はそれが、嫌だと感じはじめている。誤魔化したくはないのだ。
たとえ心の棘を抜き去ることができたとしても、今夢中で小説を書く彼が、この私に興味以上の感情を抱いてくれるのか、それは未知数。ううん、もっと正直に言おう。それはかなり、分の悪い勝負。彼の方は彼の方で、私以上に複雑な場面に立たされているのだから。
それならいっそ彼を困らせずに、自分の心の棘とも向き合うことなく、このまま退散してしまえば、きっとそれが一番平和に違いないだろう。私も、できれば面倒は避けたい方だし。
それでも、思い切って飛び込んでみたい気持ちは確かにある。今は自分が望むことを、もっと正直に体現してみたいくて、うずうずしていた。それも正直な想い。
だから、本当はあまり気が進まないけれど、手にしている本の世界を離れ、私は少し過去を振り返ることにしよう。
だけど、いきなりキツい場面はやだなぁ……。そういうのは後回しにして、まずは思い出せることから思い出してみよう。
そうそう、さっき管理人さんに話した辺りののこと。高校時代の淡くて拙い初恋の想いと、その後で実際につき合った彼氏との顛末から。そうすれば順を追って自然と、現在の私が向き合うべき過去に行き当たるはず。
最初に頭に思い浮かんだのは、とある放課後の教室でのこと――。