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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
十年も顔を合わせていなかった娘に対して、その男は色めき立ったように、とにかく容姿を褒めることを繰り返した。それで、こちら機嫌を窺ったつもりなのだろうか。少し、ううん、もの凄く呆れた。
久しぶりに会う娘を前に、どう反応すれば正解かなんて、私にわかるわけない。それにしたって、言葉なんかなくても感極まって両目を潤ませていたのなら、当然こちらの想いだって違ったものになったはず。その上、母のことも理樹の名さえ口にしないのだから尚更だった。
「これからも、たまには会わな――」
「なんで、お母さんを捨てたの?」
相手の言葉を遮り、私は単刀直入に聞いた。
「え、いや……母さんが、そう言ったのか?」
「そうだよ」
本当は聞かされていないけど、私はきっぱりとそう答えた。鎌を掛けたのだけど、どうやら効果は覿面だった。
「ま、まあ……確かに形だけみれば、そうかもしれないが。大人というものは、そう簡単に割り切れるものじゃないというか……俺には俺の事情ってやつがあってだな」
「そう。事情があって、女の人を取っ替え引っ替えしてたんだ」
「なに?」
「結局は、そういうことなんでしょ」
「いや……だから、それは」
話せば話すほど、私にとっての父親の実像がぼろぼろと崩れていった。もちろん、最初から期待なんかしてなかったけど。
「もう、私の前に現れないで」
私はそう言って、父親という存在と決別をした。理樹にも会わせる価値がない。勝手かもしれないけど、その様に判断をしていた。