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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
それでも収穫があったとすれば、母の荒れた生活の答え合わせができたこと。これで少なくても母まで嫌いにならずに済む。とっくに呆れ果ててはいるけど、哀れだと思うことはできるから。
私はこの時には、既に覚悟していたのかもしれない。子供でいられるのは、高校生まで。だからせめて、思いっきり楽しんでやろうと思った。結果的にはそうはならなかったけど、自由にはやらせてもらえたのだし、納得はできた。
いよいよ高校の卒業が近づいた時、理樹にこんなことを聞かれた。
「姉ちゃん、卒業したらどうするつもり?」
弟なりに私のことを気にしてくれたのだろう。二つ年下の理樹とは、お互いに思春期を迎えた頃からめっきり話さなくなっていたけど、そんなのは普通のことだろう。
基本的には、子供の頃から仲も良く――というより、自分にとって唯一家族だと繋がりを信じることができる、そんな存在を大事に思わないわけがなかった。
母を頼ることは、もうできない。そう想いながら、まだあどけなさを残す理樹の顔を見つめて言った。
「姉ちゃんはね。家を出て働くんだよ」
「働くって、なにをして?」
「まだ決めてないけど、さ」
私が少しおどけて言うと、理樹は呆れて。
「は? そんな無計画で、大丈夫なのかな」
「うん、大丈夫だよ。それより、ねえ理樹?」
「なに?」
「あんたは、大学に行きたいんだよね?」
私と違って、弟は子供の頃から勉強が好きだった。成績もかなりいい。
「だ、だけど……」
それでも理樹が言葉を濁すのは、当然だけど家庭環境のせいだった。
「姉ちゃんが行かせてあげる」
「え?」
「だから理樹は心配しないで、ちゃんと勉強しな」
そう話した時点で、なにをしてどうしようとか、まるで決まってはいなかった。だから理樹の方も、いつもの冗談だと、そんな程度に受け取っていたかもしれない。
だけど、私は本気だった。理樹を大事に想う気持ちだけは無駄にはしたくないから。自堕落な高校生活の中で、この心だけは決まっていたように思う。
それだけに、また自分自身というものを、とことん見失ってしまうのだけど……。