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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
新幹線は着々と目的地へ近づいていた。やがて、ごおっと風を鳴らし、トンネルの中に入っていく。その刹那。
「ごめん……」
それは、かき消されそうな小声だった。
景色を奪われても、彼女は窓側に向いたまま。ガラスに映る横顔を見ながら、俺は考えていた。このまま只、着いてくだけでいいのか。
踏み込む権利があるとかないとか、そんな風に考えてしまう。特に高坂文水に対しては、そんな想いが先に立つのだ。望まれていないのなら、無闇に触れるべきではないのではないか。彼女も、きっと触れられたくないはずだ。
でも、彼女はいつも周囲に気遣いをしているように思え、自分の気持ちは、それが表れそうになっても、すぐ隠してしまうのだから。さっき見せた涙も、全て話したいといった言葉も。
今になって、別荘に来たばかりの彼女の行動には、矛盾があるように思う。俺をあしらった、あの夜。妖艶さを纏った彼女を、今の高坂さんと重ね合わせることができない。
その部分に、瑞月が関与しているのかは定かではないけど、あの二人の間になにかあるのは確かのようだ。そして、それがあるからこそ高坂さんは「資格がない」という言葉を使うのではないか。
確かに俺にも躊躇する理由はある。松川土埜の心の闇を気にかけ、瑞月の想いにも気づきはじめている。そして、夏希木葉とその過去にも確かめたい部分はあって、その上、高坂文水に踏み込むとしたら……。
「あ!」
「どうしたの?」
「ううん……只の、メッセージの着信」
そう言いながらも高坂さんは、スマホを操作する指先を微かに震わせている。そしておそらく、この後に会おうとする相手からのメッセージを確認し、深くため息をついた。
「会ってやっても、いいって? ずっとブロックされてたくせに、何様のつもりなんだろうね」
それが、思わず口をついた独り言のようでもあったから、反応しようか一瞬戸惑うが、結局。
「そのメッセージ……今から、会おうとしてる人から?」
「うん、文句を言ってやるの」
「それは、誰?」
「……」
「一体、なにがあったの?」
「……」