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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情


 彼女は口を噤む。でも、俺に聞かれて不機嫌になったようでもない。その横顔には、迷いが表れているように見えた。

 相手の事情を慮って気をまわしたつもりが、実はなにも行動に移せない。それが一番駄目なんだと、今、俺はそう感じるから。バーベキューの夜、俺は彼女に言ったはずだ。もっと、わかりたいと。

「ねえ、高坂さん」

「え……?」

「話してよ、俺に」

「で、でも……」

 彼女はそう言うと、潤んだ瞳で俺を見つめる。でも、すぐに顔を背けると、また視線を窓の方へ。丁度その時、トンネルを抜けた。

 都会に近づく景色に目を向ける、高坂さん。やはり触れるべきではなかったのか。踏み込んだことを後悔しかけた時だ。

「ごめん……」

 彼女は再び、その言葉を口にする。だけど、その意味はさっきとは違っていた。

「!」

 肘掛けの上にある俺の手に、高坂さんが手を重ねる。そして俺の顔をじっと見つめた。

「話してもいい、かな?」

「もちろん」

「後で後悔しない?」

「しないよ、たぶん……」

「アハハ。ホントかなぁ?」

 ようやく彼女らしい、さっぱりした笑顔に安堵したのも束の間のこと。

「こ、高坂さん?」

 高坂さんは徐に腕を絡めるようにして、俺の肩にしな垂れかかってきたのである。

「覚悟してね」

「覚悟って?」

 そう聞くと、彼女は悪戯っぽく笑み、こう答えるのだ。

「甘えるとなったら、とことん甘えちゃうんだから」

 この後、高坂文水はなにを語り、どんな展開を迎えるのか。

 身を寄せる彼女の体温を感じながら、不安と少しの期待、俺はそれを胸にする。

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