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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
あっけらかんとした高坂さんの反応に、とりあえず安堵する。だけど、それも束の間のことなのかもしれない。
「じゃあさ、とりあえずは」
「ん?」
「親のせいにできる話から、聞いてもらってもいい?」
「ああ、聞かせて」
そうして高坂さんは、幼かった頃の話を始める。男と酒に溺れ、次第に荒れていく母親のこと。その母親と自分たち姉弟を捨てた父親との再会で、心底失望したこと。貧困に喘いだことなどを順に話した。
それを聞いて俺は『幸せでない』という意味において、自分とは並べてはいけないと感じる。なにも金があったとかなかったとか、そういう次元の話しに限ったことではない。少なくとも俺には親父に抗えずにいたという負い目がある。そして結果的に、瑞月のことも守ってやらなかった。
高坂文水の場合、彼女自身は微塵も悪くはないことは疑いようもない。少なくとも無力な幼少期に、両親の庇護を十分に受けられなかったことについては、そうだ。大変だっただろうな、とか安易に想像を巡らせても、きっと他人が考えるより遥かに苦労してきたはず。
誰かと比べることに意味はないことだが、たとえば松川土埜が過ごした幼少期ほど鬱屈としたものではなかったのかもしれない。それは終始、淡々と語る彼女の口調にも表れている。
すなわち彼女自身は自分を取り巻く境遇を理不尽なものと嘆くことなく、あるがままに受け止めてきたのではないか。話続ける高坂さんの横顔を眺めながら、俺はそこはかとなく健気な少女の姿を思い浮かべた。