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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
「なにも言わなくてもいいし。話だって聞き流してくれればいい」
「高坂さん?」
「うふふ。つまり、キミはいてくれるだけでいい、ってこと」
おどけた言葉に反して、俺の手を握り返したその手は震えていた。それでも、もう後戻りはできない、ということなのだろう。一度躊躇すれば、また勇気を振り絞らなければならないから。
「わかった。行こうか」
「うん、ありがと」
俺たちは警戒心を露わにしながら、店の入り口に続く狭くて急な階段を下りた。そうして『準備中』との札がかけられた扉を開け、店内を覗き込むと。
「お、来たのか」
声はカウンターの中から聞こえた。店内に灯っているのは弱い間接照明だけで薄暗く、その男の顔はよく見えなかった。
「……」
入り口で立ち止まったままの高坂さんに、その男が言う。
「は? 自分から会いたいと言ってきて、挨拶もねーの?」
「べ、別に……それより、この店って?」
「ああ、一応俺がオーナーって感じ。ま、親父が持ってた店を、改装しただけだけど」
「へ、へえ……」
高坂さんの声が上擦っているのも、無理はないだろう。これから対峙するのは、それだけの因縁のある相手だから。
「ま、入れば」
「う、うん」
高坂さんに続き、俺も店へと入っていく。すると、これも当然というべきだろう。男の冷ややかな視線が、今度はこちらへと向けられた。
「はあ? なんで、男連れ? アンタ誰? 彼氏か?」