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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
「ほらぁ、いいだろ。一回だけだって。それで終わりにするから」
私は、たぶん疲れていた。心と身体が疲れ切っていたから、木村のその申し出を毅然とはねつけることができずに……。
「本当? 本当に、これで終わりにしてくれる?」
「へへへ……嘘は言わねーって」
そうして私はまた、深く考えるより先に、自らの大事な部分を削り取られていくのである。
「わ……わかった」
黙って身を委ねた私を、木村はまるで道具のように好き勝手に扱っていたように思う。でも、この時のことを、私ははっきりと思い出すことができない。
きっと、この時の私は人形になった。人形に成り切ろうと、必死に努めていた。それはたぶん、涙を流さないために。
悔しくて泣いて、その涙を木村なんかに見せてはいけない。理屈ではない。その一心だった。
行為が終わった後、私は全ての力を奪われたかのように、ベッドで横たわっていた。そんな私に、木村はこんな風に言った。
「なんかさぁ、以外とアレだな。なんつーか……ま、いーんだけど」
その意味を成さない言葉と、私を見下ろした退屈そうな顔だけは、不思議とよく憶えている。そして、その時に複雑な感情を網羅せずに流れ出ようとした涙を、私はついに堪えることができなくなった。
「うっ……うう」
最も見せたくない相手の前で、流した涙。それが想いとなり、胸の奥まで満たし尽くすまで、私は泣き止むことができなかった。去来したのは、とても大きな喪失感。