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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
あの時、私が無くしたものは、なんだったのだろう。その答えを探すことさえ、やがて忘れてしまうのだった。
そう。当時の私は、それだけの屈辱にすら背を向ける。もう終わったこと。すっかり忘れてしまおうと、自分に言い聞かせていた。
でも、本当に私が深い失望を感じることになったのは、その後のこと。一ヶ月後ほど経ったある日、不意に着信を告げた携帯を手に取ると、聴こえてきたのは、こんな言葉だった。
「なあ、これから会わねぇ?」
忘れたくても忘れられない男の声と話し口調に、私は背筋に寒気さえ覚えた。
「や、約束したでしょ。もう終わりにするって」
「だから、指名はしてねーだろ。普通に会おうってこと」
「いい加減にして!」
「オイオイ、なにそんなに怒ってんの? いいのかよ、そーゆー態度で」
「お願いだから、もう二度とかまわないで!」
私は通話を一方的に終わらせると、それ以降、木村からの一切の接触を断ったのである。もう顔も見たくないし、声だって聴きたくない。その存在を忘却しようと、必死だったのだと思う。
でも、それにより導かれた結果は、私にとってとても残酷なものになった。
「僕、卒業したら働くことに決めたよ」
「え……?」
「姉ちゃん、仕事なにしてるの?」
私を呼び出した理樹(さとき)は、それまで一度も見せたことのない険しい顔をしていた。そして――
「僕、知ってるよ。聞いたんだ……木村くんから」
それは、私が最も恐れていたこと。理樹だけには、知られるわけにはいかなかった。そんな私の切なる願いが、この瞬間、粉々に砕かれたのだった。