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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
「どーした、なんか言えよ。それとも、反論もできねーのか」
饒舌な木村の言葉に耳を傾けながらも、俺は隣の高坂さんの様子を気にしていた。彼女は彼女らしくもなく、俯き肩を強ばらせている。
彼女らしさを知ると言えるほどのつき合いではなくても、彼女をこのままにしておくのはあまりにも忍びなかった。
俺は改めて木村に向き直り、言う。
「卑怯だな、と感じたのは『好き』という言葉を聞いた時です」
「は?」
「言いましたよね、さっき。高坂さんのことが好きだったから、みたいなこと」
「そ、そーだよ。だから、別に少なくとも他人のお前に、卑怯とか最低とか言われる筋合いは――」
更に言い訳を重ねようとする木村を遮り、俺は淡々と話した。
「たぶん、貴方も後ろ暗かったんでしょう? 一連の出来事を、本心ではね。だから、高坂さんにその点を問われ、貴方は『好き』という言葉に逃げた。すべては好きだったから、いろいろ空回りしただけ。悪気はなかったんだと。俺にはそんな魂胆が透けて見えた気がして、それで思ったんですよ」
そして、木村の顔を見据え、言葉をぶつけた。
「あ、コイツ――卑怯者だって」
その時、木村の表情に明らかに動揺が見えた。
「なっ、なんで、お前にそんなことまで……? それじゃあ、俺が好きだっていうのが、嘘だってこと?」
「別に、そこまでは言わないし、アンタの気持ちなんて知らないし、わかりたくもない」
「うるせーなっ! だったら卑怯とか――」
「いや、間違いなく卑怯だ」
「コイツ、いい加減にっ!」
木村はカウンター越しに手を伸ばし、俺の襟首を掴んだ。
俺は構わずに、その目を睨みつける。
「じゃあアンタは、好きだという相手に一体なにをした?」
「……!」
「俺は高坂さんと知り合って、まだ十日程度です。だけど――」
動きを止めた木村の手を振りほどき、今度は高坂さんの方を見て、こう話した。
「少なくとも貴方よりは、ずっと――高坂さんのことが好きだと思う。だからこそ、貴方の言葉が嘘くさくて許せないんだ」
その刹那、高坂文水の瞳から零れ落ちた一滴の涙を、俺だけが見つける。