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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
「だから違います。この言葉は今の貴方にではなく、未来の貴方に向けたもの」
「み、未来……?」
「ええ、そうです。五年後か十年後か、それよりずっと先かは、わからない。たとえば結婚して子供が生まれた時、あるいはその子供が成人した時なのかもしれない」
「だ、だから、なに言ってんの?」
「つまり、木村さん。貴方がいつか僅かでも真面に人生と向き合った時に、必ずこの言葉が追いかけていくことになるんです。卑怯者……そして、その時になって自分がしたことを悔いるはずだ」
「は? だから意味が――」
「わからないでしょうね。でも、いつか痛感するんです。そして、己の中に生じた罪の意識は、簡単に消すことはできない。誰から責められるわけではないし、法で裁かれることもない。だけどそれ故、許される術もないんです。自分自身が過去自分を許せなくなる。俺自身が、そうだったように……」
「え……?」
驚いたように俺を見た高坂さんに、俺はとりあえず微笑を返した。
そんな俺たちをよそに、木村はボトルに直接口をつけブランデーを派手に煽ると、気でも狂れたかのように一頻り高笑いをする。それから口元を袖で拭うと、カウンターに身を乗り出すようにしてこちらに顔を近づけた。