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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
高坂文水と木村という男。その因縁における清算が、これで片付いたのかは不明。少なくとも綺麗さっぱりとはいくはずもなく。最後は些か強引に幕を引いた感じにしてしまったから、あれでよかったのだろうかと、俺自身悩ましく思うところでもある。
が、しかしながら、やはり吹っ切るべきだと思う。要はきっかけにできれば、それで十分。高坂さんなら、そうできるはずだ。
そんな想いを彼女に寄り添い、懇切丁寧に伝えたいという気持ちが俺の中に芽生えている。そう、落ち着いた場所でゆっくりと。その時に、もし涙を流すのなら、俺の貧弱な胸板でよければ、いくらでも差し出したいとすら思うのだ。
それで吹っ切れるのなら、この際、存分に泣いたっていいのだから。
だけど、今のところ、その様な展開が訪れる様子は一切なく。それは高坂さんの問題ではなく、俺の方にその余裕がないからだった。というのも――
「うええっ……」
店を出てすぐに、俺は細い路地に駆け込むと電柱に手をついた。そしてそのまま蹲ると、見っともないことに激しく嘔吐(えず)き始めたのだった……。
「か、管理人さん、大丈夫?」
「はあ、はあ……ひ、昼ほとんど食べなかったおかげで、なんとか吐かずにはすみそうだけど……うえっ!」
「ほら、まだじっとしてないと」
高坂さんが背中を優しくさすってくれている。その甲斐もあってか、少し楽になってきたのだけど。
「でも、急にどうしたの?」
「ハハ……たぶん、親父のせい」
「お父さんの?」
「うん……ちゃんと話したことなかったかな? 俺は親父のことが、とにかく大嫌いでさ」
「ああ、その反発から小説書き始めたとか。そんな風には聞いてるよ」
「そう……なのに、さっき、その親父の権力の傘を着たようなこと言ってさ。その拒否反応と自己嫌悪が合わさった結果、この様(ざま)というわけで……」
「アハハハ!」
「ひ、ひどいな……人が苦しんでるのを笑うなんて」
「フフフ、ゴメンゴメン! でも、なんだか管理人さんらしいなって」
俺自身は、なんとも格好がつかなかったけど。でも、久しぶりに見せてくれた高坂さんらしい笑顔が、なによりの収穫だったのだと、今は嬉しく思えるから。
そうしてこの後、俺と高坂さんのデート(という名目)の一日は、ついに最終盤を迎えるのである。