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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
太陽が更に傾き、逆光から抜け出した高坂文水。雑居ビルの陰の中で、いつの間にか俺のすぐ近くまで顔を寄せてきている。
改めて整った目鼻立ちを、まじまじと見つめた。過去に立ち戻る内に、すっかり沈んでいた彼女はもう何処かに行ってしまったかのようで。今は少し上気したような微笑みを、俺の方に真っすぐに向ける。
俺はひとつコホンと咳払いをした。
「さ、さあ……暗くなる前に、もう帰ろうか」
「うん……そうだね」
俺たちは、少しずつ押し寄せる人波に逆らい繁華街を抜ける。そうして階段を上り、駅前デッキを駅舎へと歩いていた時だ。
「どうしたの?」
不意に立ち止まった彼女は、歩道橋の手摺に凭れかかるようにして、今来た道から更に先の街並みを眺めている。
「ごめん、ちょっとだけ」
そう言った彼女の横顔は、少し後ろ髪を引かれているようにも思える。
そうか。この街は彼女にとって、生まれ育ったところ。
「ねえ、高坂さん」
「ん?」
「電話してみなよ、理樹(おとうと)くんに」
「……」
それまで何処か感慨深そうな横顔に、そこはかとない緊張感が滲む。
不遇の中、手を携え二人で暮らしてきた姉と弟は、暫く顔を合わせていないという。
「うーん……あはは、困ったな」
「できない?」
「そうじゃないけど……ね」
「きっと大丈夫だよ」
「え?」
「俺がこんなこと言うと、無責任に聞こえるかもしれないけど」
「そんなことないよ。だけど……」
「理樹くんは、高坂さんの誇りなんでしょう?」
「!」