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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情


 高坂さんは少し照れくさそうにしながら、次にこんな風に話した。

「管理人さん、私の名前しってる?」

「あやみさん、でしょ?」

「そ、文(ふみ)に水(みず)と書いて文水。親とはいろいろあったけど、この名前をつけてくれたことには感謝しようかな。理樹は特に理系の科目が得意だったけど、私は全っ然! だけど、なんとか文系の方で大学に入ることができたんだもん、ね」

「高坂さん」

「きっと名前って、そういう力があるんだと思う。あはは、もちろん勝手な思い込みだけどさ。それでも、文学部に在籍できていること、今となってはラッキーかな」

「文学部? ――ってことは?」

「違う違う! 管理人さんみたいに、小説を書くなんて無理だし」

「じゃあ?」

 高坂さんは俺の視線から逃げるように背を向けて少し進み、それから肩越しに横顔を覗かせた。

「秘密……今は、おこがましくて言えない。でもね――」

「?」

「図書館で管理人さんを見ていた時に、おぼろげに見えたんだ。私の、こうなれたら、いいなってこと」

「……」

 過去の自分のことを卑下したり、「自分がない」なんて自嘲していた彼女にとって、今の変化は好ましいことに違いなかった。だけど――

「遠回りした分、これから取り戻さなくちゃね。だから、分不相応に夏のバカンスなんてしてられないの」

「高坂さん、俺……」

「あの三人には上手く言っておいて。ああ、部屋の荷物なら後で――」

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