この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第9章 文水の事情
高坂さんは少し照れくさそうにしながら、次にこんな風に話した。
「管理人さん、私の名前しってる?」
「あやみさん、でしょ?」
「そ、文(ふみ)に水(みず)と書いて文水。親とはいろいろあったけど、この名前をつけてくれたことには感謝しようかな。理樹は特に理系の科目が得意だったけど、私は全っ然! だけど、なんとか文系の方で大学に入ることができたんだもん、ね」
「高坂さん」
「きっと名前って、そういう力があるんだと思う。あはは、もちろん勝手な思い込みだけどさ。それでも、文学部に在籍できていること、今となってはラッキーかな」
「文学部? ――ってことは?」
「違う違う! 管理人さんみたいに、小説を書くなんて無理だし」
「じゃあ?」
高坂さんは俺の視線から逃げるように背を向けて少し進み、それから肩越しに横顔を覗かせた。
「秘密……今は、おこがましくて言えない。でもね――」
「?」
「図書館で管理人さんを見ていた時に、おぼろげに見えたんだ。私の、こうなれたら、いいなってこと」
「……」
過去の自分のことを卑下したり、「自分がない」なんて自嘲していた彼女にとって、今の変化は好ましいことに違いなかった。だけど――
「遠回りした分、これから取り戻さなくちゃね。だから、分不相応に夏のバカンスなんてしてられないの」
「高坂さん、俺……」
「あの三人には上手く言っておいて。ああ、部屋の荷物なら後で――」