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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第10章 木葉の秘密
「ああ、ねむ……」
言葉とは裏腹に、微睡みの中に墜ちきれない自分がいる。さっきまで夏輝木葉が寝ていたベッドにおいて、そこに残る微かな残り香を感じてはいるが、変に劣情を呼び起こしたわけではない、別に。
どちらかといったら高坂文水のことを考えていた。彼女に対して自分が覚えた感情についても……。
「コーヒーを飲もうよ、二人で……ミルクもシュガーも、たっぷりと入れて」
彼女の育った街の中心、その駅舎の中で。人目も憚らずに彼女を抱きしめ、耳元で俺はそう囁いた。高坂文水にとって、それがなにを意味するのか、それも十分に理解した上でのことだ。
だけど、その後に訪れたホテルの一室で、彼女は言った。
「……今はいろんな気持ちが、ぐちゃぐちゃなの。管理人さんだって、同じじゃないのかな?」
そして、こうも続けている。
「だからチャンスを頂戴。ううん、仕切り直したいの。その時に私は、自分のなかった空っぽの私ではなく、自分らしさを身につけてみせるから」
「でもっ――」
「わかってるよ。その時になって、管理人さんが今と同じ気持ちではないかもしれないってこと。それでも、今度はちゃんと出会いたいの。『管理人さん』ではない貴方と――ねぇ?」
「……」
ホテルのベッドで並んで横になり、微笑みを浮かべた彼女と自然と手を握り合い、そして見つめ合っていた。
だけど俺たちはそれ以上の言葉を紡ごうとせずに、繋いだ手の他には互いの身体を触れ合うこともなかった。
否、少なくとも俺の方には、そのままなし崩しに高坂さんを求めようと、そんな滾る想いはあった。でも結局、その後は適当に、他愛のない世間話をしたりして、いつの間にか短い眠りの中へと旅立っていた――。