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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第10章 木葉の秘密
しかし、彼女はこちらと視線を合わせようとせずに、ぼんやりと前を見つめたまま、徐々に声のトーンを下げながら更にこう続ける。
「受験生だった少女は、夏を前に学習塾に通いはじめます。塾が終わるのは大体、夜の八時すぎになりますので、いつも少女のお父さんかお母さんが、迎えに来てくれていました。でも、ある日の塾終わりのこと。二人とも急用ができて、迎えが遅れると連絡が入ります。少女は少し悩んだ後で、一人で帰る旨を両親に伝えます。学習塾から少女の家までは、およそ2キロの道のり。歩いて帰れない距離ではありませんでした。でも――」
横断歩道を渡ろうとする人影を認め、俺は車を停車させる。制服を身につけた姿は、中学生だろうか。彼女は小走りに道路を横断すると、律儀にも俺の方に向かって深々と頭を下げた。
その光景を俺と共に見つめた夏輝さんは、一旦話を中断してから――
「うふふ、かわいー」
と、小さく呟いた。
それを機に、ようやくこちらから話しかけようとした時だ。
「あのさ、夏輝さん――」
「少女も、あんな年頃だったんです」
「……!」
はじめて彼女の声音に憎悪のようなものが混じる。そう感じた俺は再び車を走らせながら、自分がなんと声をかけるつもりだったのか、それを見失ってしまうのだった。