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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第10章 木葉の秘密
「失礼。お話を続けても?」
「……ああ」
頷くしかない俺の耳に、また彼女の淡々とした語り口が届けられた。
「では――塾から家を目指して、少女は歩きはじめます。塾のある大通りから路地に入る前、少女はコンビニに立ち寄ろうかと迷いました。路地の方に進んでしまえば、その先は閑静な住宅街になります。別に食べ物や飲み物を求めようと思ったわけではありません。少女はトイレに行きたかったのです」
「!」
夏機木葉とトイレ。思えば俺たちがはじめて二人きりになったのも、トイレという個室だった。
その奇妙な因縁を、今彼女自身が語ろうとしている。
「けれどコンビニの前には、高校生でしょうか? 少女にとってあまり近寄りたくないと感じさせる、派手でヤンチャそうな男子のグループがたむろしていました。コンビニを横目に通り過ぎる少女を、彼らはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら眺めています。少女はトイレを諦めて彼らから顔を背けると、急いで路地の方に駆け出します。そこからは点在する街灯の明かりを頼りに、ひたすら家を目指して歩くことになります。普通に歩けば残り20分あまりの道のりですが、少女にはとても長く感じられます。夜の住宅街は鎮まり返っているように思え、とても心細くさせます。心なしか、後ろから誰かに見られているような気がします。けれど、少女は後ろを振り向きませんでした。きっと気のせいだ。それにもし振り返って、さっきコンビニにいた連中が後ろにいたとしたら、少女はそれだけで気を失ってしまうのではないかと予感したのです。大丈夫、大丈夫。少女はそう言い聞かせて、前を見て歩くことで精一杯だったのです」