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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第2章 コーヒーはブラックで
すっかり虚をつかれた俺は、しどろもどろに挨拶を返す。
「ま、松川さん……ど、どうもね」
焦った。まったく気配を感じなかった。いつからそこにいたんだよ。と、ついそんな視線を向けていると。
「あの……今、なにかおっしゃっていませんでしたか?」
「え?」
「確か、ハニーなんとかと」
そう言って小首を傾げている松川さんに、また焦る。
「ち、違うんだ」
「違う?」
「いやっ、なんというか、ハニー……そうだ! ハニートースト! 松川さん、ハニートーストは好きかな?」
「は、はい。まあ、嫌いではありませんが。でも朝から、あまり甘いものは――」
「だよねぇ! うん、確かに。朝は普通にバタートーストしておこう」
ふう……。なんとか上手く(?)誤魔化せた。そう思い安堵していると。
「では、私――また、お手伝いいたします」
そう言って俺を仰いだ松川さんに、思わずドキリとした。
自然と浮かべられた奥ゆかしい笑みは、緊張を露わにしていた昨日とは明らかに違っている。眼鏡越しの漆黒の瞳を見つめ返すと、吸い込まれてしまうと錯覚するくらい深淵だと感じた。そこから受ける印象は、総じて悪いものではない。むしろ、その逆。彼女から感じるのは、純真さと清潔感だった。
ハニートラップとかいう品のないワードを引き合いに出した自分を、思わず恥じたくなるくらいに……。
「ああっ、つっちー! 今朝のお兄さんの助手は私なんだからねー!」
リビングから戻ってきた夏輝さんが騒がしく声をあげると、一気に目が覚めた気がした。俺は当面アレコレと難しく思慮するのをやめ、みんなの朝食の用意に本腰を入れる。
夏輝、松川両名の手を借りたこともあり、簡素な朝食はほどなくテーブルに並ぶこととなった。