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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第10章 木葉の秘密
ともかく、そうしてアトラクションに入場した俺たちは、暗い通路を進み最初のポイントを目指した。廃病院を模した病棟の雰囲気は想像以上にリアルで、それでいておどろおどろしいもの。
夏輝さんのことばかり気にしていたけど、実は自分もあまりホラー系が得意ではなかったことを思い出していた。
「こりゃ、かなり怖いかも――ん、夏輝さん?」
訪れた病室を恐る恐る覗き込んだ時、夏輝さんがギュッと腕を強く掴んだのが、わかった。
「お兄さん、ですか?」
「え? うん」
「ずっと、こうして……木葉のこと、離さないでください」
彼女らしくもない消え入りそうな声だった。どうしてそんな風に言うのか、考える間もなかった。なぜなら――
病室の中、居並んでいる朽ちかけたベッド。その内の一つ、毛布がこんもりと盛り上がっているベッドの前に差し掛かっていたからだ。
――ガバッ!
「うわっ!」
情けなくも声を上げたのは、俺の方だった。突如としてベッドから起き上がった血みどろの患者に、まんまと驚かされてしまった。
「なっ、夏輝さん――こっちへ!」
肝を冷やしながら、夏輝さんの手を引き、とりあえず病室から通路へと脱出。暫く先には進めずに、呼吸と鼓動を鎮めることを優先する。
そうして落ち着きを取り戻した時、やはり夏輝さんの様子が普通でないと気づく。
暗がりの中、俺の前で所在なさそうに立ち竦む彼女は、繋いだ手を小刻みに震わせながら、こう訪ねた。
「この手……誰の?」
明らかに、おかしい。そう感じるからこそ、丁寧に答えなければ、ならないと思った。
「俺だよ。瑞月の兄の涼一」
「涼一……お兄さん?」
「うん、そうだよ。さ、夏輝さん。やっぱり、もう止めとこうよ。俺も、もうギブアップしたい」