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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第2章 コーヒーはブラックで
街中から離れ街道沿いに走ると、ポツンと存在を現わすジャストサイズのログハウスがある。そこが俺のバイト先である喫茶店だ。適度に年季が入り趣のあるようにも見えなくはないが、逆に趣ばかりが先行したせいか一見の観光客が入店することは稀である。
故に観光名所という立地にありながら、訪れるのは地元の常連客がほとんど。それも類は友を呼ぶというべきか、当店マスターと同様どこか一癖ありそうな客ばかりだった。
そんな店でなぜバイトをすることになったのかと、経緯を至極端的に話せば、その突端は去年の師走のこと。俺が非常に落ち込んでいた時にたまたま来店して、その時に出されたコーヒーが美味かったから。それを口にした途端、自らのため込んでいた想いを初対面のマスターに語っていたのだった。
マスターはこの店を「器」であると語った。そして俺に「ここで働いてみろ」と命じていたのである。
さっきも述べた通り、マスターにはこの店に対するこだわりはない。友人だった前のマスターが亡くなり、仕方なく店を引き継いだのだという。コーヒーの味には定評があるが、それも馴染みにしている珈琲豆販売店のブレンドの品質が確かなおかげだ。
それでも俺がこの「器」に入っているのは、この場所(みせ)と主(マスター)に不思議な魅力(なにか)を感じていたからであろう。
この日は、昼から三時すぎにかけて、それなりに客足あった。珍しく観光客が何組も来店していた。しかし夕方になると、店内は一気に静まり返っている。