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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第10章 木葉の秘密
過去を振り返る夏輝さんの口調は徹頭徹尾、淡々としている。辛い場面ほどそうであるように思えるのは、彼女の中で知らず知らず制御されてのことなのだろうか。
「あの陸矢という人は、まるで刷り込むように『涼一』の名を私に印象づけていたように思います。『涼一』が『朱海』にしたことを、僕がキミにしているんだと」
「……」
俺がさぞ複雑な表情をしたせいだろうか。夏輝さんは、ようやく俺の方に視線を向けた。
「なにか、言い訳したそうですね」
「……いや」
「じゃあ、この認識で合ってるんですか?」
「そうではないけど……その辺りのことは、俺がいくらでも自分の都合いいように話せる範疇のことで……だから今、それを語る気はない。それに、俺が陸矢たちと関わっていたせいで、夏輝さんを……傷つけてしまったのは事実だから」
傷つけた、その一言では足りないと感じながら、他の言葉も見つけられなかった。
「あはは!」
「夏輝さん?」
「お兄さん、私だってわかりますよ。陸矢という人とお兄さんが、同類ではないってことぐらい、いくら私だって――」
夏輝さんは言葉を切って、また視線を景色へと向ける。観覧車は四分の一を周回した辺り、多くのアトラクションを見下ろせる高さだ。
「――私に酷いことをしたのは、お兄さんではないです。だから恨みを向ける相手だって、他に」
そう話ながら、手すりにかけた夏輝さんの手は、微かに震えていた。