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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第2章 コーヒーはブラックで
もう客が来そうもなかったので、午後六時すぎには店を閉めることにした。本当にこの店は、こんな有り様でいいのだろうか? やや不安を覚えるが、不満の方は一切なかった。
そんなゆるい環境であればこそ、俺のような男がバイトを続けていられるのだから。
「戸締り、オッケーですか?」
「ああ。それより華火、明日から悪いな。しばらくの間、あまり店に出れないが……」
「ハイハイ。妹さんたちのお世話で、大忙しですもんねー」
華火に、からかい口調で言われた。
「別に、お世話のためじゃねーよ。そろそろ本腰入れないとマズいからな」
「小説、ですか?」
俺は鼻の頭を掻きながら、首肯した。改めて聞かれると、やはり気恥ずかしい。
「平気ですよ。私も夏休みですから。その代わりと言ってはなんですが、さっきの話……」
上目遣いの視線を受けて、俺はこう答えた。
「了解。来週の木曜だな」
「はい! また連絡します。では、今日はこれで」
「気をつけて帰れよ」
笑顔で手を振り、華火は原付に乗って走り出した。その背中を見送りながら、店での華火とのやり取りを思い返してみる。
華火から「たまたま」手に入ったというムビチケを差し出され、映画に誘われた時のこと。すぐに返事を返さずにいると、華火はその表情をみるみる曇らせていた。
「ダメっすよね……。只でさえ妹さんたちがいるのに、私と一緒に映画なんて……。わ、忘れてください。身のほどをわきまえて、私は死にますから……」
もちろん本当に死なないだろうけど、あながち冗談に聞こえないくらいのネガりようだった。その態度を妙に思いつつ、俺は言った。
「別に、いいよ。アイツらに、つきっきりってわけでもあるまいし」
「ホ、ホントですか?」
「ああ、気晴らしにもなりそうだし、せっかくだから行かせてもらう」
「やったぁ!」
最近の女子高生にしては、しっかりしていて生真面目そう。それが普段の浦辺華火のイメージである。それだけに、無邪気にはしゃいだ顔が新鮮に感じられた。