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妹やその友達と、いろいろあったアノ夏のコト
第11章 瑞月の決意
小さな子供の頃、私は心細くなると、よく涼一の手を握った。自分より少しだけ低い体温を憶えて、それを安心の起点としていたのだった。
真実を知ってから一度だけ、送迎の車の中で涼一の手を握ったことがあった。久しぶりのことだから、涼一は少しぎょっとしたけど、すぐに握り返してくれたのは、私に安心をくれるためだったのだろう。
だけど、その時、私の中に生じたものは、子供の頃のような安心ではなかった。握った手と手、その体温の差が、私の手だけがどんどん熱くなっていって、そう感じて、顔まで赤くなりそうで、気づかれたくなくて、私はもう涼一の手を握っていることが、できなくなった。
涼一が真実を知らないのだとしたら、私のこんな気持ちに応えてくれるはずがない。だから、もうなかったことにしよう。
コン! ――コンコン。
あくまで兄と妹として、もう一度、告白されたことを相談してみよう。ドアをノックした時は、そういう気持ちが強かった。
なのに――
「瑞月。俺はここを出て行くことにした」
「え?」
「高校も公立にした。父さんにも許しをもらってある」
「な、なんで? どうして、出ていくの? どうして、話してくれなかったの?」
「なんとなく、話すタイミングがなかったんだよ」
私の目を見ずに話す姿が、無性に気に入らなかった。
「そんな……ねえ、お兄ちゃん、ちゃんと理由を答えて! どうしてなの?」
「理由はないよ。出たいと感じたことが、すべてだから」
「そんな風に、誤魔化さないで!」