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落城
第2章 淫らな勝負
「それで何を使って勝負するのですか? 木刀ですか? それとも真剣でしょうか?」

志乃が尋ねた。この不埒な男をやっつけてやろうという気が満々だ。

「真剣!? とんでもない」

章介は怖気づいたようにブルブルと顔を横に振った。

「では木刀ですね。それとも佐々木殿は槍が得意でしたから、槍で勝負しましょうか。私はそれでも構いませんよ」

「お気遣いいただき、かたじけない。実は拙者、この8年、世間を放浪しながら天女昇天流の奥義を修得しました。今回の勝負、天女昇天流の流儀でお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」

「天女昇天流? はて聞いたことのない流派ですね……。いいでしょう。それで何を使うのですか。刀ですか、槍ですか」

「これを使います」

章介は袂から1尺(約30センチ)ほどの長さの棒状のものを取り出した。木製のそれは油が染み込んでいるのか艶々と黒光りしている。

「ただの棒ではありませんか。そんなものでどのような勝負をしようというのですか」

志乃は不思議そうな顔をしている。

「志乃殿、これはただの棒ではありませんぞ。よーくご覧になってください」

章介は、格子の間から腕を差し込み、志乃の鼻先に手にしたものを近づけた。

「ほら、ここ。先の方が膨らんでるのが、わかりますか」

「確かに膨らんでますね……」

志乃は目を凝らして見ていたが、何かに気づいたのか、ハッとして慌てて目を逸らした。耳が真っ赤に染まっている。

「わかりましたか。さすがに人妻だ」

章介がニヤニヤ笑っている。

「どうされたのですか、志乃様。これが何か――」

志乃の慌てぶりに何があったのか確かめようと、茜が章介が手にしている棒に顔を近づけようとすると、

「茜、見てはなりません!」

志乃は大きな声で茜を制した。あまりに大きな声にびっくりして茜は動きを止め、志乃の顔を見た。
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