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落城
第8章 破瓜
章介と悪太郎が戻ってきた。相変わらず裸のままだ。酒を飲んできたのか、顔が赤くなっている。
「お、縄を解こうとしてやがる。油断も隙もねえな」
悪太郎は二人のもとに駆け寄ると、茜を押し退け、志乃を縛っている縄に手をかけた。緩くなった結び目をしっかりと締め直す。
「ああ――」
志乃と茜が悔しそうにため息を漏らした。
「これでよし」悪太郎は言うと、茜の方の縄も確認する。「旦那、こっちも大丈夫です」
悪太郎の報告に章介は大きく頷き、「志乃殿、残念でしたな」と言って、ニヤリと笑った。
志乃は顔を顰めている。その美しい顔に章介は馬面の顔を寄せた。
「丸山の城が秀吉の手に落ちました」
「えっ!」
志乃の目が大きく開いた。
「勝信様は自決されたようです」
「そんな――」志乃の顔からスーッと血の気が引いた。「それで家臣の人たちはどうなったのですか」
「わかりません。おそらく散り散りに逃げているのではないでしょうか」
「…………」
「清七郎殿のことが心配ですか?」
章介が尋ねると、志乃は頷いた。
「お気持ちは察します。ですが志乃殿は今日から拙者のものになったこともお忘れなく。清七郎殿のことも忘れていただかなければなりません。そうだ。呼び方も、今からは志乃と呼ぶことにしましょう。よいですね。志乃」
章介は、嬉しそうに最後の“志乃”を呼び捨てにした。
「佐々木殿、一つだけ聞いてもよろしいでしょうか」
「佐々木殿は、もうやめてくださらんか。拙者のことは章介様と名前で呼んでください。そのほうが嬉しい」
「では章介様、お尋ねしますが、若君はどうなるのでしょうか」
「今更、秀吉のところに連れていってもしょうがない。明日にでも重久殿のところに送りましょう。いくらかは礼が貰えるでしょうから」
「そうですか。よかった……」
志乃はホッとしたように安堵の表情を浮かべた。
「お、縄を解こうとしてやがる。油断も隙もねえな」
悪太郎は二人のもとに駆け寄ると、茜を押し退け、志乃を縛っている縄に手をかけた。緩くなった結び目をしっかりと締め直す。
「ああ――」
志乃と茜が悔しそうにため息を漏らした。
「これでよし」悪太郎は言うと、茜の方の縄も確認する。「旦那、こっちも大丈夫です」
悪太郎の報告に章介は大きく頷き、「志乃殿、残念でしたな」と言って、ニヤリと笑った。
志乃は顔を顰めている。その美しい顔に章介は馬面の顔を寄せた。
「丸山の城が秀吉の手に落ちました」
「えっ!」
志乃の目が大きく開いた。
「勝信様は自決されたようです」
「そんな――」志乃の顔からスーッと血の気が引いた。「それで家臣の人たちはどうなったのですか」
「わかりません。おそらく散り散りに逃げているのではないでしょうか」
「…………」
「清七郎殿のことが心配ですか?」
章介が尋ねると、志乃は頷いた。
「お気持ちは察します。ですが志乃殿は今日から拙者のものになったこともお忘れなく。清七郎殿のことも忘れていただかなければなりません。そうだ。呼び方も、今からは志乃と呼ぶことにしましょう。よいですね。志乃」
章介は、嬉しそうに最後の“志乃”を呼び捨てにした。
「佐々木殿、一つだけ聞いてもよろしいでしょうか」
「佐々木殿は、もうやめてくださらんか。拙者のことは章介様と名前で呼んでください。そのほうが嬉しい」
「では章介様、お尋ねしますが、若君はどうなるのでしょうか」
「今更、秀吉のところに連れていってもしょうがない。明日にでも重久殿のところに送りましょう。いくらかは礼が貰えるでしょうから」
「そうですか。よかった……」
志乃はホッとしたように安堵の表情を浮かべた。