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紅い部屋
第2章 9月上旬・金曜日−広がる世界−

熱いシャワーを頭から浴びながら今日の出来事を反芻する。
私の日課だ。嫌なことがあってそうしたくなくても、それは日課となって無理矢理にでも押寄せ思い出させる。

今日は疲れた。身体も、頭も。

知らない人と話すことが苦手だと思っていた。
だけどあの場所なら、あの人達になら少なくとも拒絶はされない。そう確信した。

浴室から出て、Tシャツと高校の時から使っているジャージに着替えリビングの2人掛けソファの前に座った。
化粧水を頬に叩き込みながら目の前の折りたたみミラーに写る自分の顔を見た。

“犬みたいな顔”

子供の頃からよく言われる。それも、華やかな洋犬ではなく和犬。
八の字の形の困り眉。その下にあるのは小さい目と鼻と口。
目がパッチリしていて、ちょっと吊り目な猫っぽい顔に憧れる。
10代の頃から変えてない、顎下までの長さの髪。
緩くパーマを当てたように見えるがただのくせっ毛だ。
一度ストレートに矯正してみたものの、まんま和犬になったようでそれきり辞めた。


"今日話をしてたのは私の方"

ふと言われたことを思い出して 恥ずかしくなる。

そう、本当に何故だかわからない。
ほとんど会話らしい会話はケイさんとはしていないのに

"この人に話を聞いてほしい"

と思った。
この人なら、答えを持っているのではないか。直感的にそんな気がした。

あの目。表情を見ていると身体が動かなくなる。緊張に似ているかもしれない。
それなのに声をかけられるとなんだか胸が熱くなってぎゅっと全身掴まれたようになる。

ケイさんはSとMどちらなのだろうか。

あのバーにいるのだから、確実にどっちかのはずなのだけど。


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