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紅い部屋
第4章 9月中旬・金曜日━再会━
19時10分前にはバーに到着できた。
いつもは断れない先輩からの頼まれ事を「用事がありますので」と頭を下げ定時で切り上げてきた。
月曜日に小言を言われなければいいな。
冷たい烏龍茶をひと口飲んでまた腕時計を見た。
前回会ったのが19時過ぎだったので、今回も同じ時間だろうと勝手に思い込んでいたが、そもそも来れない可能性だってある。もしかしたら、あの時の会話なんて忘れてしまってるかもしれない。
店内にお客さんが入って来るたびハッと顔を上げてはまた頭を垂れる。
グラスの半分以下になった烏龍茶をチビチビ飲んでいると、シンさんが携帯片手にカウンター越しに声をかけてきた。
「ケイ君ね、少し遅れるって。19時30分までには来れそう、だって」
私が待ってること見越してわざわざ連絡してくれたんだ…
ここではない私の知らないどこかで、私のことを気にしてくれる人がいたことに嬉しさで思わずニヤニヤしてしまう。
化粧崩れしてないかしら。
いつも薄化粧で崩れるほどメイクはしていないのに、急に気になって化粧室に入り鏡の前で私を見た。
紺地に小花柄のワンピースにカーディガン。いつもは無地で黒やグレーが殆どだがちょっと冒険してみた。
手櫛で前髪を整えるがすぐ浮き上がってしまった。
ファンデ、塗りすぎかな。眉毛歪んでない?
━あれ…私、何だろういつもの私じゃない。落ち着いて落ち着いて。シュミレーション通りに。
一呼吸おいて店内に戻るとケイさんが座っていた。
「あ!」
「こんばんは。遅れてごめん」
振返りながらワイシャツの胸の、一番上のボタンを外した。
何て失態だろう。逆に待たせてしまうなんて。
「すみません、私がお願いしたのに」
「5分前に来たとこだよ。ずいぶん待っただろう、悪かったね」
全然、と首を横に何度も振ってケイさんの右隣に座った。
「腹へったな。何か食べた?」
いいえ、と首を振る。
メニューをこちらに渡しながら
「俺はオムライス。君は?」
「わっ、私もオムライス」
即答した。
ケイさんと同じものが食べたい、と思った。