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紅い部屋
第4章 9月中旬・金曜日━再会━
店内は私達の他に、ステージスペースに1組と私達の反対側に座っている3人組だけだ。
シンさんは3人組の接客についていてこちらには背を向けて立っている。
既に食事の皿は下げられていて、カウンターにはケイさんのジンとおかわりした私のアイスティ。氷がとけてグラスが汗をかいている。
「さて」
ケイさんが頬杖ついて身体ごと私の方へ向いた。
「何を知りたくて何を知ってほしいのかな」
私は蛇に睨まれた蛙のようになる。
"知ってほしい"?
「だけど君はすごい度胸の持ち主だね。知りたい気持ちだけでここまで来れないよ、普通は」
やっぱり非常識だったのか、と視線を膝上の指先に落とす。
「頑張ってよく来たね」
はっと思わず顔をあげケイさんを見た。
嫌味で言ったのではない。
受け入れてくれようとしている。
踏み出すのは私。私自身。怖い。でも
この人になら、解放できる。
この人はきっと、"私"を否定しない。
この人に私を知ってほしい-
どんなふうに、どこから話をしたらいいのだろう。どんな言葉を続けたら少しでも理解してもらえるだろう。事前にシュミレーションしてきた会話も、何もかも頭からすっ飛んでしまい役立たずだ。私はまた目を伏せた。
「俺はね、この店の存在を知ったのはもう20年以上前なんだ。ネットなんか普及してなかったから、SMの専門雑誌見て調べてね」グラスに口を付ける。「こんなこと友達にも相談できないし」
私は思わずうんうん、と頷く。
「同士というか、共通の話や考えを持ってる人と交流したくて」
「わかります!私も、です!」反射的に右手を挙げてしまう。
「漠然と、後ろめたさというか‥罪悪感もあった」
「ええ、こんなこと想像してていいんだろうか、って」ケイさんも同じ思いをしてたんだ!思わず前のめりになる。
「こんなこと‥ってどんなこと?」
ケイさんの射抜くような真っ直ぐな視線。空気が一瞬にして変わる。私はまた俯いた。
「あ‥えっと‥ここで見た‥アルバムの写真のような‥」
「どんな写真だった?俺はあの時中身を見てないんだ。教えてくれる?」
「‥お‥男のひとに‥お仕置きをされたり‥そういう‥」
「お仕置きって、何をされてたのかな」
「お尻を叩かれたり‥身体を‥縛られていたり‥」
顔中が暑くなり首筋にじんわり汗が流れた。