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紅い部屋
第4章 9月中旬・金曜日━再会━
話続けて息が切れ、額の汗を拭った。残りのアイスティーを一気に飲み干す。
こんなにいっぺんに自分の事を語ったのは初めてだ。
シンさんが“はい”と2杯目のアイスティーをコースターの上に置くと、ケイさんは私が持っていた空のグラスを取り上げ脇に寄せた。
話すことに夢中で気付かなかったが、ケイさんがおかわりを頼んでいてくれた。
細やかな気遣いに感謝し、息を整えた。
「言えることは今吐き出しなさい。たとえば、何をされる事が苦痛?」
ケイさんの真っ直ぐな視線に私はまた目を逸した。
「たとえば…その…優しくキスされたり抱きしめられたり…身体を愛撫されたり…
だんだん、触られてることすら嫌になって、我慢してたら気持ち悪くなってしまって…相手のこと好きなはずなのに、行為になると全然気持ちが動かなくて…ただただ痛くて…」
「うん」
「…初体験の苦痛のあと、思い出したんです…あの心地良さのこと」
「もう一度縛ってみた?」
私は頷いた。
「身体を弄っていないのに気持ちよくなって…縛られてる方が抱きしめられるより何倍も心地いいんです、時間を忘れてしまうほど。私やっぱり普通じゃない、変。異常です…子供の頃からこんな事ばかりしておかしいんだ、不感症なのかも…」
「不感症なんてそんなことないと思うけどな。軽く縄酔いしてるみたいだし」
縄酔い…上目遣いにケイさんを見る。
「その彼とは性癖の不一致でしょう。君が自分自身を知って受け入れる事が出来れば、自分が異常だなんて悩まくなる。
そもそも、何が"普通"で何が"異常"なんだろうね?
君が"異常"だと感じている全てを受け入れてくれる相手がいるのだとしたら、2人の間ではそれは"普通"になるんじゃないか?」
私の心に覆った硬い殻に言葉が突き刺さりじわじわと溶けていく。
ケイさんから目が離せない。
「実は"普通"なんて括りはどこにもないものかもしれないよ」
私は涙を零しながら何度も頷いた。