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紅い部屋
第5章 9月中旬・金曜日━夜の散歩━
「終電までまだあるね。この後時間大丈夫?」
「は、はい」
慌てておしぼりで涙を拭う。
「じゃあ少し散歩しよう」
必死に拒んだが、ケイさんは待ち合わせに遅れたおわび、と飲食代を全て支払ってくれた。
次は私にお支払させてください、と言ったら軽くあしらわれた。
店を出ると少しひんやりとした秋風が心地よかった。
だが週末の喧騒を前に現実に引き戻される。
すれ違う人とぶつからないように歩くのが精一杯な私に気付いて、ケイさんは私にあわせてゆっくり歩いてくれた。
「あのビルに入ろう」
横断歩道の先の雑居ビルの2階を指差した。
シンさんのバーより更に薄暗く狭い階段を上がって「OPEN」と札がかかったドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
顔見知りなのか、女性店員とケイさんが挨拶を交わしている。
10畳程しかない空間に、床から天井までびっしりと商品が展示されている。
ネットでよく見ていた、SMグッズだ。
「わぁ」
思わず声が出てかがんで見てみる。
何にどうやって使うのかわからない物だらけで見ているだけで楽しくなってきた。
「これは何でしょう?」
「あ!これかわいいですね!」
ケイさんは私の興味に逐一答えてくれる。
口以外の顔全体を覆うラバーマスクや拘束具
男女別の貞操帯と呼ばれるもの、婦人科で見たことがある検査器具のようなもの
赤白長短様々な蝋燭
シリコン製の男性器を模したもの
肛門の拡張に使うというものまであった。
どれも想像を越えたものばかりだが、ケイさんが時々背後から屈むように私の耳の近くで説明するので 余計に緊張し変な汗をかいてしまった。
「わぁ…これが本物の鞭ですね、初めて触ります」
壁にかかった、重厚な革がスラリと延びたその先を手にした。
「それ、ここにある鞭の中で一番痛いと思うよ」
「えっ」
「他に気になるものある?」
反対側の棚に、綺麗に束になった麻縄があり1束手にした。
「独特の香りがありますね。意外にケバケバしてるんだ」
「それはまだ鞣してないからね。俺は鍋で煮て鞣すけど今は初めから処理済みのものもあるよ」
そう言って処理済みの束を手渡してくれた。両方顔に近づけてみた。
「何だかクセになる匂い」
その様子を見ていた女性店員が「かわいい」とクスクス笑った。
恥ずかしくなり束を元に戻した。