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紅い部屋
第5章 9月中旬・金曜日━夜の散歩━
週末はまだまだ人通りが絶えない。
飲み会帰りのサラリーマンや、腕を組んで歩く男女とすれ違う。
「どうだった?さっきの店」
「あんなにたくさん道具があると思いませんでした…それと、意外にお値段がするんだなぁって」
あはは、とケイさんが声を出して笑った。
「うん、本革製なんかはね。あと消耗品多いし」
「ケイさんは…私と真逆の方、てすよね」
ちらりと右隣を見上げる。
「うん、君が被虐嗜好なら俺は加虐嗜好だね」
「どんなこと、なさるんですか。ああいう道具、使うのでしょうか」
ケイさんの歩くスピードが少し落ちる。
「俺はね、女性を屈服させたり苦悶の表情を浮かべているのを見るのが好きなんだ」
サラリと凄いことを言う。
「まわりに聞こえちゃいますよ」
人差し指を口の前に立てた。
「俺は構わないよ。君は自分がマゾヒストだってバレたら恥ずかしい?」
ケイさんが私を覗き込むように顔を傾ける。
「恥ずかしすぎます」
耳まで一瞬で熱くなる。
横断歩道が赤信号で止まった。
「君はさっき、道具の値段の事を言ったね。でもね道具なんかなくてもSMって出来るんだよ」
私の真後ろにピッタリと立ってかがむ。
ケイさんから、ウッディなアロマ系の匂いがする。
「首輪をつけて、君のそのワンピースの中のもの、全部俺に預けて歩こうか」
「!」
「両の乳首が擦れて勃ってしまうかもしれないね…あの男性はすれ違いざま、君が乳首を勃たせて歩いてるって気付くかもしれない」
私は慌てて両手で胸を覆った。
「スカートの下から風が入ってお尻に直に当たるでしょう。ノーパンで、恥ずかしいね。スカートがめくれたらどうしようか」
「そんなこと…無理です。恥ずかしくて…出来ません…」
顔を上げると、信号は青になっていて皆横断歩道を渡り切っていて、ケイさんも向こう側から取り残された私をみていた。いつも以上に鋭い目
「無理、は赦さない。言われた通りにやりなさい」
見たことのない鋭い目。“はい”以外の答えを出させない目
息が一瞬止まった。
頭の中に、ケイさん低い声がこだまする。
その声に反応して、身体が熱く疼く。両足が少しずつ開く。
「ごめんごめん!」
ケイさんの明るい声。
グイッと右手首を引っ張られた。
「あ…私…」
「コーヒー飲んで帰ろうか」
そう言ったケイさんの表情や声のトーンは元に戻っていた。