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紅い部屋
第6章 9月下旬・金曜日━混沌と冒険━

「あたしは“ルカ”。ここでM嬢してるんだ〜」
そう言ってミルクティー色のネイルが黒地にゴールドの文字の名刺を差し出した。
「私は“響”。ルカと同じ店でS嬢の勉強中」
ルカの背後からそっと名刺を重ねた。
「わ、わたしは佐和です。29才OLです。会社の名刺は持ち合わせていません。すみません」

2人から頂いた名刺をじっと見比べる。
六本木にある、SMクラブの名刺。

「SMバーとSMクラブって、何が違うんですか」
「全然違うよ〜」
ちょっとほろ酔いのルカに代わって冷静な響が顔を出す。
「バーは性癖を語ったり、わかりあう同士で仲良くなったり…時には話の流れで軽く縛ったり叩いたりなんてことも起こるけど…基本は語り場だよ」
ルカは眠そうにカウンターに伏せって“そだねー”と相槌を打った。
「クラブは、S嬢とM嬢が在籍する風俗店だよ」

私はまた知らない世界を目の当たりにし硬直した。
「Mの子を指名してくれる男性客は“御主人様”その反対は“奴隷クン”」
艶のあるボブヘアが話すたびにサラサラ揺れる。
「プレイ内容はコースで決まっていて、料金と希望プレイ内容は比例するよ。ハードになるほど、料金が高い」
思わぬ情報に前のめりになって聞いてしまう。
「ハードなことって…どんなことを…お二人もされるんですか?私、初心者でSM未経験なんです」

「私は今はS嬢だけど、クラブに入るとき初めはM嬢をさせられるの。Mの気持ちがわからないとSにはなれないって思うから」
響さんは圭吾さんとはまた違う、色気を含んだ妖艶な目つきをしている。

「だからMの時は緊縛やスパンキングや飲尿やアナルファックもしたよ。アナルが出来るのとそうじゃないのでは指名数に差が出るから頑張ったよ」
ウトウト寝てしまったルカの頭を響が優しく撫でた。

「あの…毎回、お相手…指名される方って違うんですよね…?」
慎重に言葉を選んで話す。

響が紫のグラデーションに縁取られた猫目で見つめる。
「予約制だから、誰から何を何時間されるのか事前にわかるけど」ニッコリと頬杖ついて微笑む。
「その時間は誰が来ようと私と御主人様・奴隷との非日常の時間。世界なの。
遊びじゃなくて、本気なの。指名してくれた時間は2人のものなのよ。店の中だけのね」

ゴクリ、と唾を飲む。
沼につま先を吸い込まれている私がいた。

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