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紅い部屋
第6章 9月下旬・金曜日━混沌と冒険━

「ごめぇん。冷たい言い方して。佐和ちゃん、あんまり気にしないで軽く流してね」
ルカがカウンターに左頬をつけたまま上目遣いで言った。
「お客が一方的に嬢に本気になっちゃって、奥さんにカミングアウトしたらしくてぇ。そしたら奥さんが子供連れて店に乗り込んで来たんだよぅ〜旦那返せ〜って」

「ええっ修羅場じゃないですか!」

「そうなの〜こんなことがあったからね、響機嫌悪いの」

「イライラもするわ。ちゃんと割り切らないから家族に迷惑かけるのよ。一番の被害者は子供よ」
厳しい顔でグラスの中身を一気に空けた。

はぁ、と響は深くひと息ついて
「この店には今15人くらい人がいるよね」と首を伸ばして辺りを見回した。
「15人それぞれの、15通りの嗜好があってSMの形があると思う」

「嗜好と形…?」

「そう。厳格な主従関係結ぶ人、恋人同士のセックスの延長上にSMがあるひと、多頭飼いのひと、スパンキーやスパンカー、縄師さんととりまき」
「主従関係のまま結婚しちゃう人もいるよね〜」
ルカが口を挟む。

「どれが正しいとか邪道とか、そんなのない。お互いが納得してればいいの。
どんな嗜好でもどんな形のカップルでも関係のない人に迷惑かけたり嫌な思いさせたら駄目だよ」

「はい、SMに限らず、どんなことでもそうだと思います」

「佐和ちゃんはあたしらと同じこっち側じゃないんだからさ、変な男に取り入られないようにちゃんと自分で見極める力をつけなきゃダメだぞぅ〜」

何気に、私はSMクラブ嬢向きのMではないと言われてしまった。
クラブ体験がしたかった訳じゃないけど、ちょっと寂しさというか疎外感を感じた。

ふと圭吾さんの顔が頭に浮かぶ。
いや、圭吾さんは断じて変な男なんかじゃない。

今日はここで失礼させて頂いて、夜道を考えながら歩いた。

もし誰かとパートナーが組めるとしたら
私とその人の形ってどんな風になるんだろ。
主従関係?多頭飼いってなんだろ

それって、服を着たままでもしてくれるのかなぁ…


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