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紅い部屋
第7章 10月上旬━現実を見る━
初めて聞いた鞭打の音。
その音に併せて私の身体もビクッと反応する。
乾いた音と共に3人の呻き声がステージから聞こえた。はじめに呼ばれたニットの女性は「痛っ」と声をあげていた。
「もう一発いくよ」
女王様に声をかけられ若い女性が「ワン」と応える。他の2人も思い出したようにそれに倣う。
また観客からクスクス笑いが漏れる。
異様な光景。
大勢の前で縛られて、四つん這いにされ叩かれ、犬の真似をさせられ鳴く。
“させられてる”━?
違う。辱められる事を自ら望んだ。
まだドキドキしている。驚きじゃない…高揚。
「圭吾さんも、同じようにするんですか。縛り上げて四つん這いの身体に鞭を打つんですか」
「するよ」
ステージ上の出来事を圭吾さんと私に置き換えてしまう。治まるどころか、益々身体が熱くなって圭吾さんの方をまともに見れなくなる。私の顔はステージに向いたまま。
「縛って逆さまにして吊るすし、鞭だって血が滲むまで何十発も打つよ。2穴責めもするし排泄も目の前でさせる」
誰にも見せた事がない位泣いて喚いてぐちゃぐちゃになった顔や姿を晒せる相手を知ったら、きっと離れられないだろう。
綺麗な景色を一緒に見てくれる人はいるかもしれない。でもその逆…汚く憐れな姿を受入れて認めてくれる人がいたら。
束の間の宴が終わり、皆それぞれの席に戻っていく。
まだ私は圭吾さんの顔を見れない。
「どうして顔を背けたままなの」
鏡を見なくても、今自分がどんな顔をしているのかわかっている。
咄嗟に両手で自分の頬を挟み圭吾さんから見えないようにした。
「顔見せて」
ひょいと正面に圭吾さんの顔が表れた。
「いい表情してる。でも目は覚まさないとね」
そう言ってバチンとおでこにデコピンをした。
「痛ッッた!」
思わずおでこをワシャワシャと擦り、高笑いしているその人の方へ振り返った。
「危なくてそんな発情期丸出しの顔のまま帰せないよ」
ぱくりとサンドイッチを頬張った。
発情期て…人を動物みたいに…でも否定も反論も出来ない。
今まで媒体を通して見ていた行いが、短い時間だったが確かに目の前にあった。手を伸ばせば届くところに。