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紅い部屋
第10章 10月下旬【有意義な時間】
あれから毎日俺には“大丈夫”なんて言うが、言葉のニュアンスでそうじゃないことは会わなくてもわかる。
気分転換になるかな。
食事に誘ってみた。
リクエストは洋食。アレルギーなし好き嫌いも殆どない。
焼肉だと匂いを気にするだろうか。イタリアンや肉バルならメニューも多くて楽しめるかな。
あまり外食をしないらしいから、好きな物を一杯食べて欲しい。
席だけ予約して、現地で彼女が食べたいものをオーダーしよう。
職場のデスクで駅チカのいい店がないか調べていたら、部下に見つかり揶揄された。
「係長!いい感じのお店じゃないですかぁ」
「…旦那誘って行っておいで」
ウチの会社にはプライバシーなどない。誰と?、など根掘り葉掘り詮索されるのはよくない。携帯の画面を消した。
*****
待合わせ当日。
先に駅に着いていた彼女に声をかける。
トレンチコートを羽織り、すっかり秋の装いだ。
「圭吾さん!」
顔は…ほっとしているような、でも心配事を気にしているような…少し複雑な表情。
実直で芯のある子。だけど全てにおいて自信がなくていつも後方にいる。
初めて会った時の印象は“隠れ暴れ馬”
信じて思い込んだら突っ走って行きそうだから、パートナーはしっかり手綱をさばける人がいいと思う。
ドリンクを注文したところで、彼女が綺麗な柄の紙袋を渡してきた。
ハロウィン限定のドリップコーヒーと焼菓子のセット。
なんでも、前にご馳走した時のお礼と、仕事の話を聞いてくれたお礼なんだそうだ。
俺がコーヒーが好きなこと知ってたのかな。
彼女のことだから、選ぶのに時間がかかったに違いない。余計に気を使わせてしまった。
「ありがとう。早速家で使ってみるよ」
彼女ははにかんで、少し頬を赤らめ俯く。
オーダーした料理が次々運ばれると、彼女は喜色満面の笑みでそれらを頬張った。
「ん〜柔らかい!」「このソース美味しい」「うわ、肉汁垂れた〜」
段々相応の女性らしくキャッキャしてきて、見ていて飽きない。
そう。彼女は本来顔に喜怒哀楽がハッキリ出るタイプなのに、一線を引いて印象を薄くしている。
〆になって、店員が大きなパルミジャーノチーズの塊の中でパスタを絡めると『喜』のゲージが更に上がったのか彼女はパチパチと拍手をし俺は思わず吹き出した。