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紅い部屋
第11章 10月下旬━圭吾さんの秘密━
もう1か所連れて行きたい所がある、と誘われビル街を歩いた。
お腹がいっぱいで、2人ともいつもより歩みがゆっくりだ。
ふいに仕事の話になって、圭吾さんが私の前に立つと
「まだ言ってなかったね」
とスーツの内ポケットから2つ折りの革のケースを手慣れたように開いて見せた。
「あっ」
テレビの中でしか見たことのない身分証明書。ゴツい紋章の上に制服姿の圭吾さんの写真。周囲から見えないようにすぐしまってしまった。
だから当直があったり急に忙しくなったり休みが不規則だったり…そういうことだったのか。目つきが鋭いのは職業柄なのか元からなのか…そこはわからない。
現役刑事を前に、ミステリや警察ドラマや〇〇24時シリーズが好きな私はテンションが上がってしまい色々聞いてしまう。
だけど警視庁には特命係はないし、科捜研は事件現場に出動しないと聞かされがっかりしていると、ピーポくんのイラストが書かれた圭吾さんの名刺を貰った。
名前の他に所属部署と階級も書いてある。
嬉しくて、大切にお財布に仕舞った。
私は名刺がないので会社のホームページを開いて見せた。
「この会社で営業事務してます」
圭吾さんに倣って所属部署も言った。
「新卒で入った会社が合わなくて…1年で辞めてしまって。派遣社員で食いつなぎながら資格を取って今のとこに再就職して5年経ちました」
「頑張ったね。それじゃもう中堅扱いだ」
「1人で生きていけるように、自立しようってそれしかなかったから」
「1人でなんて勿体無い。君の世界はこれからだよ?」
「圭吾さんは…どうですか…あの。いないんですか、そういう女性」
勢いで今日一番聞きたかった事を聞いてしまった。
ノンアルコールだったはずなのに、酔っ払ってないかしら。
「何年も前に結婚した人もいたけどね。こんな性癖なのに隠して結婚してしまったから、1年で破綻した」
圭吾さんの横顔から目が離せない。
「隠してやっていけると思ってたんだ。だけどやっぱりダメで。仕事を理由にして段々と帰らなくなって、セックスレスどころか同じ家にいても別々の部屋に籠もるようになった」
圭吾さんはまっすぐ前を見たまま。
「そのうちね、彼女から“好きな人が出来たから別れてほしい”って言われて」ビル風が2人の間に吹く。
「俺は正直、ほっとしたんだ」