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紅い部屋
第11章 10月下旬━圭吾さんの秘密━
事前に予約していたという商業ビルに入って受付けを済ます。
ビルまでの道すがら、頭の中で“結婚”のワードがぐるぐる廻っていた。
過去のことだし、今までだって彼女くらい何人かいたはずだし
こうやって食事に行くのも私だけじゃないはずだし
あぁ私何考えてるんだろ…これ以上は止め。
観光客だろうか、家族連れの外国人と一緒にエレベーターに乗る。
耳がおかしくなるくらい高い所に連れて行かれ、到着し開いた景色は今まで見たことがないものだった。
360度1面ガラス張り。東京の街並みが見渡せる。
目の前には東京タワー。地面から生えているような高層ビルやタワーマンション。それらを縫うように走る高速道路。全てがイルミネーションされ光輝いている。
「わ…」思わずガラスに駆け寄り振り返る。「東京が一望出来る展望台、このビルにもあったんですね。知らなかった」
「俺も初めて来たよ」
私の隣に立ち、上がった口角を更にキュッと引き上げた。
「私の家はあっちの方向かなぁ」「富士山はどっちかな」なんて展望台をグルグル周る。
一周して、やっぱり東京タワーのある景色が一番綺麗だと思った。
「このビルの灯り…きっと残業中の人もいますよね」
「これから夜勤で始業する人かもしれない」
「芸能人とかモデルがパーティしてるかも」
「家族でテレビでも観てまったりしてるんじゃない」
「不倫の真っ最中の人もいるかも」
「お、言うね」
圭吾さんがクスクス笑い、ハッとした。
「すいません…調子に乗りました」
「確実なのは、ここにマゾとサドが夜景を楽しんでること…でしょう」
思わず吹き出してしまって
「ふふふ。そうですね。素性や事情はどうあれ
私…このたくさんの光の中の小さなひとつなんですね」
「そうだよ」
「意外と私と同じような人、いるかもしれない」
「どうかなぁ」
「えっ、そこは肯定して下さい」
ニヤッと意地悪そうに微笑って
「“意外と”天邪鬼だし見た目に反して“意外と”変態だし」
「!真似した!」
ケラケラと声を出して笑っている圭吾さんにつられて、私もついつい笑ってしまった。
こんな風に声を出して素で笑ったの、いつだったっけ?
心に少しの傷も無い人なんてきっといない。
圭吾さんは私にほんのちょっと、心の扉を開いて見せてくれたんだ。きっと。