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紅い部屋
第1章 9月上旬・金曜日−扉のむこう−

「どなたかの紹介かな?」

カウンターの中から声をかけられる。
口角は上がっているけど目は明らかに怪しんでいる。
まずい。気持ちが昂って、きっと挙動不審だったに違いない。

「いえ、ネットでSMについて検索していて…そしたらこちらのSMバーがヒットしてそれで以前から来てみたいとずっと思ってて」

焦ると早口になってしまう。
それに気付いてよけい焦る。

「あの、私真剣にSMについて学びたいと思っててそれで」

「ふふふっ」

失笑されて、顔が熱くなる。

「とりあえず座ったら?僕はここの店長のシンです。宜しくね。これ、ウチのメニューとシステム。ワンドリンク制だから、一杯は飲んでいってね」

店長は慣れた手付きでカウンターの上にメニューと“お約束ごと”と書かれた冊子とおしぼりを置き「どうぞ」と促した。

「すみません…」

バッグを椅子下の籠に入れ、示された席に座る。

背もたれのある木製の椅子はシート部分が柔らかい革張りで座り心地がよい。
少し高めで座ると足が地面につかない。

メニューを見ると、カクテルやビールなどのアルコール類からソフトドリンクまで一通り揃っていて、普通のバーと何も変わらない。

"女王様の黄金サワー"や"奴隷専用トマトジュース"なんて突拍子もない名前が付いているのかと想像していたので少し安心した。

さすがにジュースやカンパリソーダでは子供扱いされるかも、と背伸びしてギムレットにした。

店長がカウンターから消えると、冊子を開いた。


・20歳未満入店禁止。
・営業時間 18時から翌1時まで
・全席禁煙
・男性女性、カップル、それぞれの基本料金が記載。ドリンク2杯目以降と料理は別途精算。
・ステージ使用無料。責め手は経験者のみ可、受け手は初心者可能。男女ともに着衣必須。性器の露出、射精、スカトロ行為禁止。
・店内撮影時は必ず事前に当店スタッフにご相談下さい。
・他のお客様の性癖、プレイ内容等を蔑む行為発言は厳禁。場合によっては店判断で退店頂くこともあります。

・当店は“性癖に悩み迷った者が行き着く安寧の場です。紳士的に楽しい時間を過ごしましょう”


新しい世界のルール。
噛み締めるように何度も読み終かえし、冊子を閉じた。


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