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紅い部屋
第1章 9月上旬・金曜日−扉のむこう−

周囲に気付かれないように数回深呼吸すると少し落ち着いてきた。

私の席の対岸には入口で会ったサラリーマンが座っていて、頬杖をついて携帯をいじっている。

店内は耳障りにならない程度にBGMが流れている。
背後のステージ以外はいたって普通のバーだ。

店長もデニムシャツを腕捲りしたラフな格好で、狭いカウンター内で手際よくドリンクを作っている。
その背後にある壁の向こうはキッチンのようで、暖簾で目隠しされて中は見えない。
トイレはサラリーマン側の壁側にあった。
ステージのあるフロアからはカップルの、笑いを含んだ話声が微かに聞こえるが会話の内容まではこちらに届かない。

「お待たせしました」

木製のコースターにギムレットが置かれた。

「すみません。ありがとうございます」

続けてサラリーマンの方にも飲み物が置かれた。
サラリーマンが何か店長に言っているがはっきりとは聞こえなかった。

手元のグラスに口をつける。
甘さなどない"大人の味"が喉を通っていく。

一瞬にしてチョイスをミスった、と思った。
下戸に近い私が飲むには強すぎた。

「残念だけど、暫くイベントの予定はないの。古い写真なんだけどよかったら見てね」

店長はそう言って小さなアルバムを3冊渡してくれ、キッチンに引っ込んでしまった。
私が暇をもて余さないよう気を遣ってくれたようだ。


ありがたくアルバムをめくってみた。


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