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紅い部屋
第12章 11月上旬━佐和の隠し事━

「痛てて…」

右肩の鈍痛で目が覚めた。
昨日ぶつかった所かなぁ…

携帯を見るととっくにお昼を過ぎていた。
頭が重い。
ビールを飲んだことを後悔する。

圭吾さんからLINE来てる。私、家に帰って来たの連絡してなかった…

“酔って寝てしまって、今起きました”

バーの近くまで行ったこと、後姿を見たことは伏せた。
隠し事に胸にチクリと罪悪感が湧く。
既読が付かない。
携帯をベッドに放ってお風呂にお湯を貼った。

ヒノキのバスオイルをいつもより多めに入れてキャンドルを灯しバスタブの隅に置く。
ゆらゆら揺れるろうそくの炎。
オレンジ色の光は圭吾さんと見た夜景を思い出させる。

…LINEの返事、来てないかな…

ゆっくりお風呂で時間を過ごすつもりが、携帯が気になって手早く身体を洗う。

お腹の傷に指が触れた。
私にはおへその右下に10センチ程の開腹手術の痕がある。

治療して15年以上経つが術後の経過がよくなかったのか、切開した縦線やそれを縫った痕が紫色に膨らみ、引きつっている。
お腹の中で癒着してるからだと診断されたが、それらを治すにはまた手術が必要らしく諦めた。

温泉に行くと小さい子供にじっと傷痕を見られることがある。そのくらいはっきりとわかるものだ。

嫌いなのはこの傷だけじゃない。

小学4年生の頃から膨らみはじめた胸。
6年になると大人と変わらない位大きくなって、男子にもよくからかわれた。体育の授業の着替えは苦痛でしかなかった。
だから今も、目立たないように胸を潰し谷間を見せないようなブラを着けている。

元彼は“そんなの気にしない”と言った。信用してしまった。
その上私が気付かなかった知らなかった他の女性と違う歪な部分を、そのひとは指摘し罵った。

人前で裸になることが出来なくなった。
実家の母とよく行っていた温泉や銭湯も断っている。

酷いコンプレックス。

それなのに圭吾さんには見られたい、蔑まれたいなんて密かに思っている。

自分の性癖を知りたくてバーに行っただけ。自分の居場所があるならそこに居たかっただけ。
そこで誰かを好きになることなんてないと思ってた…

…圭吾さんだから、だろうか。
きっと圭吾さんは私にとって特別なんだ…


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