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紅い部屋
第12章 11月上旬━佐和の隠し事━
ベッドに放った携帯は緑色の通知ランプが点滅していた。
まだ髪が濡れたままなのにそれに飛びつく。
『今淹れて飲むところ』
添付されてたのはドリップバッグが掛かった和陶器のカップの画像。
私がプレゼントしたコーヒーだ。
『昨日は限定のハロウィンブレンドで今日はモカ』
毎日使ってくれてる…。プレゼントして良かった。
ふと、今私にLINE出来るってことはあの女性とは一緒じゃないってことかな、と思った。が、そんな事直球で聞けるはずない。
私も電気ポットでお湯を沸かす。
豆の種類はこだわってない。いつも使っているのはスーパーで売ってる瓶に入ったインスタントで牛乳をたっぷり入れて飲む。
私も淹れました、と画像を送った。
すぐ既読がついた。
離れているけど、時間を共有して一緒にコーヒーでまったりしてる気分になる。
なんだかいいな。この時間。
さっきまでの二日酔いの気だるさも、ぶつかった右肩の痛みでさえも忘れてしまう。
『来週からまた忙しくなる。あまり話せる時間ないかも』
『今電話だめですか?』
勢いで打ってしまった…
しばらくしてあのコロコロした音が鳴って慌てて操作し通話に出た。
『わ、私が掛けようと思ってたのに!』
『どっちが先だって変わらないよ。何かあったの?』
『……何も…ないですが…ちょっと圭吾さんとお話したくなりました』
ふふっと声が漏れ聞こえた。
『昨日は随分遅かったんだね』
突然切り出されてカフェオレを吹き出しそうになる。
『羽目をはずしてビールを2杯も飲んでしまいました』
『楽しそうでなにより』
楽しいどころかモヤモヤ腐ってました。さっきまで。
そんなイヤミな言葉も湧いてきた。嫉妬は醜い。
『圭吾さんは…バーへ行ったんですか?』
平静を装うとして声が裏返ってしまった。
『行ったよ』
あっさり言われて、その後の会話を考えてなくしどろもどろしてると
『でも人が多かったから1時間くらいで出た』
『…誰かと仲良くなりました?』
『いや。新しい人とはあまり話さないから』
私とは話したのに。
本当は“あの時隣にいた女性は誰ですか”と聞いてしまいたい。